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松本謙一の工作トーク#002

フランクリンのつや消し木工ボンド


コラム  ジオラマといい、ストラクチャーといい、私が何ゆえこの分野の工作を好むのか、 その理由の大きな一つは「接着剤でのんびりやれる」というところにあります。

 ハンダ付けの工作は、どうも熱と指先の我慢勝負みたいなところがあって、 おのが指先の皮の焦げるにおいに慣れっこにならないと上達しないところがあります−というのは、少し大げさかもしれませんが、 ハンダ付け名人−とれいん誌の時代に永年の相棒だった平井憲太郎(いまやテレビの名士で先生とお呼びしないと失礼ですが) がそうでした−の作業を観ていると、やはり独特の運動神経が必要なのだろうという気がします。


 そこへ行きますと、接着剤の工作は概してのーんびりしています。 最近では「1分間エポキシ」などという、A,Bを練っているうちに固まってきてしまう、あわただしいのもありますが、 まあ、普通、接着面を合わせてからでも位置の微修正は利く、というものが多く、 私のように、納得行くまで固着位置を調整したい人間には至極向いていますし、また必然の乾き待ちに茶を飲んだり、 パイプに火をつけたり、落語を聴いたり、ヌード写真集を眺めたり (これだってジオラマの実物資料だーい!さかつう店頭の作例をよく見るように)‥次の工作手順を考えたり、と、いろいろな楽しみが発生します。


 この、「仕方なく待っている」という時間がいいんですね。そこが仕事と違うところです。 ですから、「超速乾」なんていうのは、ただ忙しくなるだけで、少なくとも私の好みではありません。


 と申しましても、接着剤の好みも、これまた千差万別で、工作によってもいろいろ使い分けが必要です。 接着剤工作が上手に、手際よくできるようになる、というのは、すなわち、接着剤に慣れる、自分好みの接着剤が決まってくる、ということですね。


 何事も最初からいきなり上手くなろう、というのは虫のいいはなしで、何事もある程度の投資をしてみて、その世界が判ってくるものです。 ですから、接着剤も「これ1本ですべてをうまくやろう」などとは考えずに、「強度の必要なところには何がいいか」 「接着面積の小さいところにはどれが向くか」「しみこみの多い素材には?」と、これは自分で試してみるのが一番です。


 私たち「団塊の世代」とよばれる年齢層にとっては、少年時代はセメダインC, 通称「セメC」がポピュラーで、 あの黄色いチューブは結構何でもよく着きました。それから始まって、エポキシ、ゴム系、ホワイト(木工)ボンド、瞬間接着剤‥と、 時代を追って新しい接着剤が順次登場してきたので、それぞれを体験するインターバルがありましたから、自然と接着剤に詳しくなりました。


 その点、今のお若い方は生まれつき接着剤情報の海の中に放り出されたようなものですから、却って大変でしょうね。 でも、結局、接着剤は万人に「これが正解」というのはなくて、あくまでも「自分には使いやすい」という製品に出会うまで捜し求めるしかないし、 捜し求めるべきですね。


 その代わり、「これは使いやすい!」という接着剤が決まった時の気持ちよさといったらありません。 同じゴム系、酢酸ビニル系などといっても銘柄で微妙に違うので、私は近年では、東急ハンズで気に入りの銘柄が販売中止になれば客注入れて取り寄せさせます。


 ジオラマ工作の多くの場合やバスウッド製のストラクチャーの組み立てで私が愛用している木工ボンドは米国のフランクリン社が造っている 「タイトボンドオリジナル ウッドグルーTitebondORIGINAL Wood Glue」です。これは木工ボンドといっても、よく見かける白色でなく、 黄味がかったクリーム色ですが、乾燥すると艶がほとんど出ない、というところが大きな魅力です。


 私のように、何でもしっかり作らないと落ち着かない、という人間はどうしても接着剤を多めに塗るのではみ出させてしまいがちなのですが、 その点、このフランクリンのボンドははみ出しても目立ちません。


 普通の木工ボンドより、やや流動性が高く、垂直面では垂れ易いので、その点を注意する必要がありますが、金属の小パーツも含め、よく着きます。 この製品、もう20年近く前にハンズに初入荷して、当時はすぐ販売打ち切りになるのでは、と心配の余り買いだめしたものでしたが、好評だったのか、 輸入元がしっかりしているのか、いまだにしっかり売っています。


 さかつう店頭でも開店に当たって、このボンドを置いた、というのは、さすがに経験ある店主の店だな、と、思わずニヤッとしたものでした。 まあ、松・謙に騙されたと思って使って御覧なさい。さすがに接着剤文化の国の伝統製品だけのことはある、と納得されると思います。


 接着剤を制するものがジオラマを制する−私はそう考えています。

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